平成17年6月1日 災いを転じて福となす

更新日:2021年03月19日

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市長てくてく城下町
上田清

大和郡山市長

 平成十年九月二十二日、紀伊半島を北上した台風七号は県内を縦断し、室生寺の国宝・五重塔が倒木によって損壊するなど、各地に深刻な被害をもたらしました。
 この時、やはり大きな被害を受けたことが逆にきっかけとなり、それまで忘れられようとしていた貴重な文化財が修復され、地域の共有財産としてみごとに復活したお寺が市内にあります。
 それは、平安時代の僧源信が建立したといわれる丹後庄町の千体寺で、修復されたのは本堂に安置されていた国の重要文化財・紫檀塗螺鈿厨子(したんぬりらでんずし)。厨子というのは仏像などを納める棚形の置物ですが、千体寺の厨子は文字どおり千体仏といわれる小さな仏像を納めるもので、正面と左右に約一一四〇体を数えるとか。
 銘木として珍重された紫檀の木目を漆によって本物そっくりに表現する紫檀塗りの技法と、貝殻を細かく砕いて漆で張りつけたり固める螺鈿。千体寺の厨子はどちらの技法も極めてすぐれたもので、専門家の間では高く評価されながら、一般にはほとんど知られていないというのが実情だったのです。
 台風七号の被害は深刻で、倒壊の危険さえ出てきた本堂の厨子は大きなピンチを迎えました。しかし、国指定の文化財だから、国の補助があるのでは?という言葉をきっかけとして活動が始まり、数年がかりで新たな収蔵庫の建設とあわせて厨子の修理、クリーニングが実現したのです。専門家ではなく、地元の熱意が国に届き、多くの人々を動かした例として、伝えていきたいものです。