まちかどレポート398

更新日:2021年03月19日

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まちかどレポート

まちかどレポート398 一本の矢に真心を込めて~2015年射初会~

(まちかどレポーター 後藤)

一本の矢に真心を込めて~2015年射初会~(平成27年1月29日掲載)

1月18日朝、緊張しながら弓道場に入ると、第213世東大寺別当・故平岡定海老師の書「一心一箭」に目が留まりました。「一本の矢に真心を込めて射よ」との意です。
この日、市武道場・弓道場にて、大和郡山市弓道協会の方々による「2015年射初会(いぞめかい)」が行われました。
弓道協会には総勢103名(2014年1月1日現在)が在籍し、10代から80代までの方がそれぞれの目標を抱き日々、練習に励んでおられます。

午前9時30分に開会式が行われ、午前の部として「巻藁(まきわら)射礼」「矢渡」「演武」、昼食をはさんで午後からは「紅白的」「色的」・・・とまさに弓道三昧。間近で弓を引く姿を見るのも初めてでしたので、最初は緊張の連続でした。

巻藁射礼後、10時30分からの演武は、皆さん真剣な表情で臨まれていました。
この演武では弓道の基本「射法八節」をゆっくりと見ることができました。
射法八節とは、弓の引き方のことで「足踏み」「胴造り」「弓構え」「打起し」「引分け」「会」「離れ」「残身(残心)」の8つの動作によって構成されています。この動作のうちひとつでも疎かにはできません。一つ一つが弓道において最も基本の動作だからです。弓道というと、的に当てることが最大の目的と思っていましたが、それも結果として大事ですが「どのようにして」弓を引くのか、「どうやって」矢を射るのか、ということが重要なのですね。
また、弓を引き終えた後の残身(心)までも大切なのだと知りました。
「自分自身」と「弓」、そして「的」。これらが繋がり合えた時、矢はおのずと的を目がけて真っすぐなラインを描き飛んでいくのかもしれません。

袴姿の複数の大人と子供が、弓をもち構えている写真
袴姿の4人の人が、弓を持ちひざをつき一列に並んでいる写真
袴姿で弓をもった人が膝をついて構えている、周りは石が敷き詰められた庭が見えている写真

緊張の為か午前の部はあっという間に終わり、昼食に。
外出後、少し早目に弓道場に戻ると射場に円陣ができていました。
弓道は相手は人でなく的ですので、一人で楽しむことができる競技ですが、弓を愛する同志での語らいも意欲が高まるものですね。

日本の国旗が飾られた広めの和室で輪になって会話をしている人たちの写真

会員の方々は職業も年齢も様々です。
近況報告や自己紹介なども行われていて、こうした休憩の場も互いのコミュニケーションを図る貴重な時間となっています。
弓道は個の武道ですが、他者の呼吸や空気を感じながら弓を引くタイミングを計るところなどを見ると、他者を気遣う日本人の気質にマッチした、武道だと感じました。

午後、最初は「紅白的」。
紅白対抗戦のようなもので、相手色に命中は5点加算、味方色の場合はマイナス5点という面白いルール。
午前の雰囲気と全く違い、命中したら拍手をしたり声を掛けあったりの賑やかな雰囲気で、そのギャップに思わず笑みがこぼれてしまいました。
ようやく私も緊張が解きほぐれ、一緒になって楽しませていただきました。

矢を射る瞬間を左前から撮った写真
遠くにある的にめがけて、袴姿の人が弓を構えて暗めに写っている写真
弓道の解説をしている人たちとそれを聞く人たちの写真
赤白に色が別れている弓道の的

この紅白的は一年に一度ということで、非常に盛り上がっていました。

すっきりと晴れ上がった空に、皆さんの矢を放つ姿は見学していて清々しい印象を受けます。
弓道のいろはも知らずお邪魔しましたので、親切に色々と教えてくださいました。
弓や矢は竹製とカーボン製があり、竹素材の物はやはり自然のものですので、管理が重要なのだそうです。
またかつて、矢の羽は「鷲」や「鷹」などが主流でしたが、最近は「白鳥」などの水鳥の羽を使用。
弓の長さは、射手の身長に合わせて調整するとのことでした。

しばらく弓道場の的近くで見ていましたが、矢が射手の手元を離れ風を切り、的を目がけて飛んでいくさまを見るだけでもワクワクします。
矢のスピードは一体何キロくらいなのでしょうか?
見事に的に命中した時は一瞬ですが、五感に響く心地よい音色がします。
逆に的を外れた時は、土に矢が刺さる「サクッ」という音。
どちらの音色も普段は聞けませんので時折、目を閉じてその音色を楽しんでいました。

午後の部2つ目は「色的」です。
幾何学模様の的は初心者の方でも当たりやすいよう、会の方々のお手製。
苦心の作です!

三色に塗られている弓道の的の写真
三色に塗られている的とその横で札をめくっている写真
国旗が飾られた和室に袴を着た複数の人が弓を構えている、奥は屋外になっている場所の写真

開会式のあいさつの中で協会の会長さんが「皆さんの職業も年齢も違いますが、楽しみながら伝統的な弓道を後世に伝えましょう」「美しい弓道を」と仰っていました。楽しむ事は上達への近道。たった数時間の取材でしたが弓道に興味が湧いてきました。

帰り際一人の女性の方が、還暦をすぎてから弓道を始めたと話されていました。未経験でも、やる気と根気があればいつからでも始められるのですね。

大和郡山市城南町には郡山藩主松平忠明公に取り立てられた剣豪、荒木又右衛門屋敷跡があります。
弓術でも忠明公に禄をいただいた伴喜左衛門一安(ばんきざえもんかずやす)という名士がおり、道雪派(どうせつは)という一派を立て、門弟は諸国に数千人いたと言われているそうです。
大和郡山は、いにしえからの武道の精神が今も息づく街。
そんなこの街の伝統を、幅広い年齢の方々がそれぞれ楽しみ、互いに切磋琢磨しながら後世に引き継いでおられます。

大きめの和室でたくさんの人達が列になり写っている写真

今回は、新年最初の大切な行事に参加させていただきありがとうございました。
弓道場の傍らの一本の蝋梅が甘い香りを放ち、風に揺られて咲いていました。
弓を愛する会員の方々の心意気には、寒空に咲く蝋梅のような凛としたものを感じます。

青空が広がる屋外で、大きい木が中心にある写真